少し前のことですが、1月23日にIBMはx86サーバ事業をLenovoに売却することを発表しました。
買収価格は約23億ドルとのことでした。
この対象には、System xとBladeCenterだけでなく、Flex Systemなど、x86に関わる製品群が対象となりました。
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この売却により「x86サーバ市場においてIBMが凋落した」と評価するのは、あまりにも短絡的です。
調査会社であるガートナーが発表した2013年第3四半期のサーバ市場のシェアによると、金額ベースではトップのHP(27.6%)に次いで、IBMは世界2位(22.9%)です。3位のDell(16.4%)に差をつけています。
しかし台数ベースで見ると、IBMは8.1%で3位。
2位のDell(19.3%)に大きく差をつけられています。
このサーバ市場シェアは、x86サーバだけではなく、メインフレームやRISCサーバなど、全てが含まれているのです。
つまり、IBMは単価の高いミドルからハイエンドサーバで稼いでいるのであり、ローエンドサーバでは勝てていないのです。
さらに台数ベースのシェアには、「Others」が40.4%を占めています。
このOthersとは、台湾などのODMメーカです。
今まではHPやIBMなど、サーバメーカの委託により製品を設計・生産していました。
しかし、FacebookやGoogleといった大規模データセンターをもつ企業から直接受注し、世界でのシェアを増やしているのです。
「Others」の割合は年々増加しており、この脅威はIBM以外のHP、Dellなどにも、当然及んでいます。
このようなマクロ環境において、いち早くローエンドサーバ市場であるx86サーバ事業を売却すると決めたのは、さすがIBMと言っても良いでしょう。
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さらに、この方針は、負ける分野から逃げ出すだけの手段ではありません。
実は攻めるための手段だとも捉えられるのです。
IBMは2013年6月4日に、パブリッククラウドサービス大手のSoftLayerの買収を発表しました。
IBMはクラウド事業に今後、12億ドルを投じる計画を発表しています。
さらに人工知能を目指すWatsonに10億ドルを投資することも発表しています。
つまり、x86サーバ事業の売却(23億ドル)により、クラウド事業(12億ドル)と人工知能(10億ドル)へ投資する資金を得ることができた、と考えられるのです。
もう1つ。IBMは2013年7月26日、Cloud Foundryでオープン・クラウド・イノベーションを加速すると発表しています。
Cloud FoundryはオープンソースのPaaSソフトウェアです。
IBMは既に、IaaSレイヤはコモディティ化が進んだと割り切ったのかもしれません。
既にCloudStackやOpenStackのようなIaaSソフトウェアが存在し、AmazonやMicrosoft、Googleのクラウドサービスもあります。
ハードウェア仮想マシンまでのレイヤであるIaaSでの勝負は避け、IBMが本来強みを持つビジネスレイヤで勝負するために、敢えて、PaaSレイヤでの勝負を仕掛けているのかもしれません。
まとめると、IBMはコモディティ化が進むローエンドハードウェア事業やIaaSでの勝負を避け、経営資源をPaaS以上のクラウドや人工知能に投下しています。
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業界のうち、どこまでがコモディティ化が進んでいるのか?
それを見極め、自社がどこで強みを発揮して、勝負すべきなのか?
戦略策定に活かしましょう。