3度目となる五島長崎国際トライアスロン(バラモンキング)。
まさかバイクシューズを忘れるというミスを犯す。
走り始めてからは「これはネタになる」「新たな伝説を作る」と自分に言い聞かせ、奮起して走ったものの、
実態はただの自業自得、マッチポンプ、自作自演。まぁ、アホです。
なんだかんだ根性で、シューズなしで180kmを走破。
しかし、その過程で左膝を故障してしまい、最後のラン、42.2kmの壁が立ちはだかる。
過去の記事はこちら。
また忘れ物・・
バイクを預け、ランバックを受け取り、更衣室に入る。
バックにはチーム「ポセイ丼」のウェア、ノースリーブ版が入っていた。
去年はここで着替えて、気分転換をした。
ただ、それでラン2周目は少し寒かったので、今回はそのまま行くことにした。
「って言うか、ラン用の靴下入ってねぇし・・」
また忘れ物だ。
そう言えば、この五島に来てからの旅の間、モノの管理が酷かった。
- 反射テープの余りをどこに入れたか分からなくなる
- DHバーにフロントボトルを取り付けるゴムを忘れて現地で購入
- コンビニで買ってきた食べ物・飲み物をホテルの冷蔵庫に忘れてくる
- サングラスの入れ物がなくなる(未だ見つからず)
等など、挙げたら切りがない。
後日、帰宅後に家族へその話をすると、息子が「妖怪『忘れん坊』に取り憑かれてるんだね」と。
そうか、妖怪のせいだったのか・・
話を戻すと、ラン用の靴下が入ってなかったが、もはやそんなことで心は微動だにしない。
ここまで酷使しまくっていたバイク用の靴下のまま、行くことにした。
ランシューズを履いて、ポーチをつけて、更衣室を出る。
なお、荷物をウェアの背中ポケットに入れるのではなく、ポーチを使ったことを、後から後悔することになる・・
更衣室を出るときに、まだ仙人が準備中なことに気づく。
仙人はとっくに出ていると思っていたので驚きつつ、一言二言交わして、先に出た。
膝が痛い・・
更衣室を出て、ソロソロと歩きだす。
この時点で既に膝に違和感を感じた。
去年は更衣室からランスタートまで約300メートルは、小走りで進んだ。
しかし今回は、いきなり走るのは危ない。
この区間は、まずはしっかり歩いて、脚を慣らす。
ランスタート地点でMCの方に名前を呼んでもらう。
バラモンキングは、こういうところが本当に温かい。
エイドで食べ物と飲み物を取る。
ここで固形物を食べられたので、去年までに比べれば、胃は元気だ。
バイクの途中で、胃がバテ始めているのを感じて、早めに胃薬を投入したのが良かったのかもしれない。
あるいは、補給食を最小限にしたことが効いたのかもしれない。
ちなみに胃薬も忘れて、現地でみよっしーに分けてもらった。
恐るべし妖怪。
このエイドで思わずコーラをグビグビと飲んでしまった。
まだ42km残っているのに。
そのせいか、ラン開始直後から、お腹が張ってしょうがなくなってしまう。
で、本題の膝。
試しに少しだけ走ってみる。
「痛っ!!・・・」
どうやら当面、走れそうにはない。
幸いなことに、まだ制限時間まで6時間以上ある。
歩くのは違和感を感じるものの、問題はなかった。
全力で歩けば、キロ9分くらいで進めることは、過去の練習で分かっていた。
40kmで6時間ペース。
エイド休憩もあるし、登り下りもあるので、常に同じペースで進み続けられるわけではない。
途中で関門もある。
歩きだけでは足りないので、歩きながら膝の様子を見て、
走れるところは少し走らないと、制限時間に間に合わない。
それが目の前の現実だった。
とは言え、膝が回復するまでは、とにかく歩くしかない。
作戦名は「全力で歩く」。
フルマラソン相当の距離に気持ちが負けないよう、このレース中、初めてスマホを取り出し、妻にメッセージした。
「膝を壊して走れないけど、残りの時間、全力で歩く!」と。
宣言することで、より自分から諦められないようにした。
同時に仲間からメッセージが入っているかも確認したが、特に何もなかった。
みんな、頑張っている様子。
2年前は、このタイミングで、ザックのDNFを知ったのだった。
バイクで限界を感じペースダウンした時点で、個人としての13時間切りの目標は諦めていた。
ただ、チーム全員で完走することは諦めない。
「あと6時間、頼むから粘ってくれ」と自分の身体、特に膝を諭す。
心強い味方
走れない私を、仙人が小走りで追い抜いていった。
・・と思ったら、100メートルもしないうちに、「古傷の膝が痛い」と座り込んでストレッチしていた。
どうやら仙人もバイクの途中から我慢していたらしい。
そんな状態で、バイクをあんなにかっ飛ばしていたのか!改めて尊敬する。
私が先に進み、全力歩きしていると、また仙人が小走りで追い抜いていく。
そんなことの繰り返しで、結局、ランの間、ずっと抜いたり抜かれたり。
そのたびに一言交わす。
これが実に心強かった。
「仙人がここにいる」という事実が、「まだ自分はゴールできる」という確信につながるからだ。
仙人に大きく離されなければ大丈夫。
そう言い聞かせて、大きく大きく、しっかりと肘を引いて歩く。
たまに平坦な場所で、30歩くらいなら走れるようになってきた。
大きな歩きと、ちょっとした小走り。
これを組み合わせて進むと、コンスタントにキロ7〜8分台では進むことができた。
仙人とは、膝を痛めた者同士、勝手な連帯感を感じていた。
お互いベストコンディションではないけれど、ゴールは絶対に勝ち取る。
その決意をお互いに感じていたからだと思う。
2年前、初めてのバラモンキングでは、ランの後半を羅王と併走し、つながりを感じた。
他の仲間も同様に、抜いたり抜かれたり、お互いを応援し、励ましあいながら、一体感が作られていく。
バラモンキングには、仲間との関係を、一層深くさせてくれる不思議な力がある。
お腹が張る・・
過去の2レースに比べて、明らかに胃は元気だった。
おかげでかんころ餅やクッキー、バナナなどを、エイドで補給することができた。
昨年のようにトイレに駆け込みまくることもなかったし、
固形物を食べられている時点で、今年の補給は上手くいったのかもしれない。
ただ、どうしてもお腹の張りが強くなってくる。
お腹が張っているのにポーチをつけて走ると、その揺れがお腹を圧迫してつらい。
今度からは、背中のポケットを利用しよう。
一度トイレに行けばラクになるのかもしれないが、膝が痛いので仮設の和式トイレに座れる気がしなかった。
結局、このレース中、10km折り返し、30km折り返し地点で2度、洋式トイレを使わせてもらった。
胃は良いが、下っ腹が張る・下痢するのは、まだ別の問題を抱えている様子。
今後の長時間レースに向けた課題である。
ザックの走りを見よ!
ランスタートして大して経たないうちに、元帥が抜いていった。
今年は去年より明らかに足取りが軽そうな様子。
みよっしーとは8km地点くらいですれ違った。この時点で4〜5kmくらい離れている。
そして、10kmを折り返してしばらくすると、少し前を走る仙人が、突然道路の中央寄りに進んでいく。
ザックだ!!
ザックとハイタッチするために、車に注意しつつ、私も中央寄りに進む。
ついにザックがバラモンのランにたどり着いた!
このときの感動は、ポセイ丼のメンバーにしか、きっと分からない。
一昨年、25メートルも泳げなかったザックは、その数ヶ月後にバラモンで3.8kmを泳ぎきった。
スイムスキップをせず完走を狙った男気だった。
しかし、バイクでコンタクトが外れるなどのトラブルがあり、まさかの関門ストップ。
リベンジを誓った去年は、五島入りした後、まさかまさかの急性胃腸炎。DNSとなった。
完走に向けて、誰よりも「断固たる決意」を持って臨んでいたのは、ザックだったろう。
バイクコースの下見は、爆睡だったが。
苦手なスイムトレーニングを続けていたし、今年はやってくれると思っていた。
そのザックが、ついに、ついに!ついに!!バラモンのランを走っている!!
しかも、陸の王者らしく、その走りは軽い。ロングのランとは思えぬほどに。
「ざぁっっく!!!!」
仙人と3人で言葉を交わす。
あまりの興奮に、何を話したのか思い出せない。
ただ、ザックがゴールするなら、自分も絶対ゴールする!と気持ちが上がった。
ザックとの差は3〜4km程度。
抜かれるのは時間の問題だけど、それすら嬉しかった。
その後も膝を壊した者同士、仙人との(ほぼ)並走が続く。
しばらくすると、熊が現れた。
遠くから見てもデカイ。
100kg近い巨体が迫ってくる。
時間が厳しいが、熊もウルトラ完走者。
ギリギリ粘ってくれることを祈りながら、ハイタッチする。
21km地点まで戻ってきたが、AKBとバッシーとはすれ違わなかった。
トイレ中に抜かれた可能性も考えたが、仙人も「見ていない」と。
心配になったが、自分にやれることはないので、淡々と歩を進めた。
2周目に入ってすぐ、ザックが抜いていった。
ザックの勇姿を少しでも長く見ようと、痛みを我慢して少しだけ長めに走ってみたけれど、すぐに見えなくなった。
いい走りをしている。何だかとても嬉しかった。
ただ、完走を目指して・・
残り1周(21km)で、3時間20分残っていた。
ほぼキロ10分で行ける。
残りは全部歩いても行ける。
このレース、この時点で初めてゴールできることを確信した。
太陽は沈み、景色は少しずつ暗くなっていく。
周りの選手も、電気のないところでは、ほとんど姿が見えなくなる。
もうここからは、淡々と進んだ。
エイドでは水分の取りすぎに注意。
日が射さなくなり、冷え始めたので、アームカバーをつける。
エネルギー切れに注意して、ジェル1つの半分ほど飲んだ。
みよっしーからもらった胃薬を飲み、残り21kmを万全に進める準備をする。
スピードが出せないから、些細なトラブルが、制限時間切れのトドメになりかねない。
そういう些細なトラブルを生まないよう、1つ1つ芽を取り除いていく。
走れるところでは走り、少しずつ時間の貯金を作っていく。
全ては完走のために。
心のつながり
真っ暗になっても、五島の人たちは老若男女関係なく応援してくれる。
「あとちょっとですよ」
「間に合いますよ」
「さぁ、ラストだ!」
「頑張れ!!」
30km折り返しからゴールまで。
最後の最後。
過去のレース同様、お礼を言いながら進む。
「丸1日、本当にありがとうございました!」
「遅い時間まで、応援ありがとうございます!」
バラモンキングの、この瞬間が大好きだ。
運営スタッフ、島の方々、選手との心が通じ合うような。
「また来年も来てね!」
そう言って頂けることが本当に嬉しい。
1,000人ものトライアスリートが押しかけて、通行止めをしたり、ゴミを出したり。
迷惑に感じることが、きっとあるはずだ。
それでも、こういう温かい言葉を笑顔でかけてくれる。
ありがたい。本当にありがたい。
ゴールまでの気持ち
あと数km。
時間を計算すると、昨年の記録は破れないが、一昨年の記録はギリギリ切れるかもしれない。
これを目標にして、気が抜けそうな自分を躾ける。
バラモンを完走できることは、もちろん誇りだ。
でも同時に、少し情けない気持ちになる。
なにせ、トライアスロン2戦目だった頃の自分と競っているのだ。
もっと明るいうちにゴールしたかった。
バラモンで、実力を発揮したかった。
前を行く仲間たちとゴールを競いあいたかった。
でも、悔しいけれど、これが今の現実。今の実力。
膝が痛いし、体力的にもつらいのに、少しだけ来年のチャレンジを考えながら進む。
ラスト2kmで14分くらい。
せめて2年前の自分に勝つため、最後のムチを入れる。
沿道の方々にお礼を言いながら、歩かないように進む。
福江港ターミナルを左折。
ゴール地点からの声が聴こえてくる。
そして最後のレッドカーペットへ。
自分が何かの主人公になったかのように、ライトが照らしてくれる。
悔しさ、情けなさは吹き飛び、今ここに居られることを自然に喜べた。楽しめた。
そしてゴール!
「ありがとぉ~!!」
チームの仲間、運営スタッフ、ボランティア、応援の方々。
快く送り出してくれた家族。
共にゴールに挑んだ選手達。
そして、この五島・福江島の大自然。
何か叫ぼうと思ったとき、「ありがとう」以外の言葉が思い浮かばなかった。
14時間28分の旅が終わった。
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【編集後記】
ようやく、膝の痛みが少し抜けてきました。
今日も素晴らしい1日になります。感謝!!
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